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伊達好きねこたの歴史関連や創作物についての呟き処+創作小説置き場(もちろんフィクション)です。
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2024.05.18Saturday
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「無念だろ。」
2021.05.29Saturday
成実+左馬+政宗+小十郎

左馬の最期。
討死とか華々しい最期ではありませんので、左馬の死因を御存知ない方は注意!
一緒に帰ってない事はわかってるんで、その辺のツッコミは御容赦を(●∀´;)

左馬といえば、まごべとのいざこざ(一方的)。
左馬といえば、殿の御食事の相伴率超高い(食道楽?)。
若くて、向こう見ずで、元気なイメージの左馬だからこそ、その落差を大きく描きました。

『腫気』って、現代の具体的な病名あるのかなって調べてみたんですが、『全身が浮腫む病気』みたいな抽象的な答えしか見つからず…家主の認識合ってるのかしら?
何十年も後の話ですが、ザネたんの死因も左馬と同じ『腫気』だったって、ホントかな?老衰説もありますが。
代謝が悪くなって身体が浮腫むと、全部『腫気』扱いなの?


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激しく揺れる床板に、如何にか体勢を保ちつつ、成実は辿り着いた戸を押した。ギイィと軋みながら開かれたその奥は仄暗く、背後の扉の隙間から射す細い光を頼りに、漸く、狭い室内に人影を認める事が出来る程だ。
冷たい床に敷かれた筵(むしろ)、その上に身を横たえる掻い巻に包まった青年―――。
「左馬。気分は如何だ?」
静かに声を掛けると、ごそりと身体を捻り、うっすら瞳を覗かせる。元々秀麗で引き締まった顔立ちであった友、原田左馬助宗時だが、今や病に侵され、腫れ上がった瞼はそれ以上持ち上げる事が出来ないらしい。
「水を持って来た。飲むか?」
一歩踏み出すと、掻い巻の下から伸びる浮腫んだ手。
「成実殿、うつります。」
消え入りそうな声を受け、
「平気。丈夫だけが取り柄だから。」
何の根拠もないのに、にっかと笑うその表情が何より心強くて―――その手の中の水差から、左馬助は二口、水を飲んだ。

天下人の道楽か、それとも本気で海の向こうの大地まで手中にしようとしたのか、見知らぬ国へ旅立って半年。そう容易く大国を落とせる訳もなく、数多命を散らして帰還する事となった。
その異国での戦が齎(もたら)したものは、名誉の負傷ばかりではなく、食料不足や病に肉体を蝕まれる者、慣れない環境に精神を病む者―――各々傷は深く、目の前の彼もまた、その一人だった。

「殿は…御無事で?」
「元気だよ。左馬の事、心配してる。会いたがってるけど、万一の事があったらって皆に叱られて、しょげてるよ。」
「ハハ…。流行病で良かったかな……こんな醜い姿、殿には見せられない……。」
彼から端麗な容姿を奪った病、病を得る要因であった戦、戦を仕掛けた人物―――成実は無性にその顔が憎らしく思えた。いくら左馬助が若く体力があろうとも、もう先が長くない事は素人目にも明らかで、それが口惜しくて堪らなかった。
「無念だろ。志半ばに逝くなんて…。
 だから生きろ。梵はいつか天下を盗るから…俺達が必ず盗らせるから……梵の天下の行く末を一緒に見届けよう。」
「―――是非に…。」
微かな声が余韻を残し、徐に唇が弧を描く。瞼を下ろして、ふうっと吐き出す長い息。
―――知ってる。この場面。
かつて父が、母が、そうであった、最後に細く長い息を吐いて、静かに、眠る様に―――。
「梵の天下を…一緒に……。」
出会ってから十年と少し、歳の近い彼と交わした数々の馬鹿げた閑話達が脳裏を駆け巡る。
握ったその右手の甲にはたりと一滴、雫が落ちた―――。

今宵は月がない。
厚い雲の立ち込めた黒い空はまるで、障子の向こうで時折嗚咽を漏らす主の心を写し取った鏡だ。
「成実殿はお強いですね。左馬助殿とは、昵懇でいらしたのに。」
肩を並べて主の様子を窺っていた参謀、片倉小十郎が囁くと、成実は、
「梵が泣いてる時は、俺は泣けないんだ…。」
独白の如く呟いた。
歳近く、まだ若い家老の死に、政宗は激しく取り乱した。
戻れ、勝手に逝くなど許さないと、散々無茶を喚き、宥める成実には、最期に立ち会ったお前に何がわかると八つ当たり。上陸の頃には落ち着きを取り戻したものの、宿となる寺に着くなり部屋に籠り、感慨に耽っている。
―――いつまでも落ち込んでても、左馬は戻らない…。
それが正論であろうとも、今口にすれば、主の機嫌を損ねるだけ。
彼自身、頭ではわかっているだろう。わかっていても割り切れない事もある。それが感情であり、人である証だ。成実も重々承知している。
両親の死、育てていた動物達の死、その都度自身も味わって来たから。
「とりあえず白湯でも貰って来るか。このままじゃあいつ、干乾びちまう。」
「そうですね…。」
成実がその場を離れようとした時だった。
「誰か…誰かいるか?」
障子の奥から届いた、か細い声。
「成実殿と小十郎が、此れに。」
参謀が応えると、主は短く返した。
「硯を持て。」
と。

夏衣きつつなれにしみなれとも別るる秋の程そ物うき
蟲の音も涙催す夕ま暮淋しき床の起臥はうき
哀れけに思ふにつれぬ世の習ひ馴にし夢の別れをそする
みるからに猶哀れそう筆の跡今より後の形見ならまし
誰迚も終には行ん道なれと先立つ人の身そ哀れなる
吹払ふ嵐にもろき萩の花誰しも今や猶まさるらむ

政宗が書きつけたのは、六首の和歌だった。
「な、む、あ、み、た、ふ…。」
「それを左馬の躯と共に燃してくれ。」
泣き腫らした左眼に宿るいつもの光。如何やら、吹っ切れた様だ。
「さあ、ありったけの紙を持て。先立った者達の遺族に書状を認(したた)めるぞ!」
「では用意して参りまする。」
席を立ち、障子を開けると、いつの間にやら雲は切れ、月が煌々と輝きを放っていた―――。
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