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伊達好きねこたの歴史関連や創作物についての呟き処+創作小説置き場(もちろんフィクション)です。
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2024.05.18Saturday
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隻腕の天狗1 記憶の彼方に
2021.08.07Saturday
鳥渡の山の奥で出会った謎の男と時宗丸(成実)。

シリーズ名が『隻腕の天狗』ですが、別に人外のお話じゃないです。
普通の人間です、はい。


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遠い昔の曖昧な記憶の中に、見知らぬ男がいる。

幼い頃、通りすがりに出会った、深い森の奥に結ばれた小さな庵の前で薪を割る男。
妙に気に掛かり、気がつけば駆け寄っていた。
此方の気配に気づいて振り向くと、何処となく父に似た面差しで、歳の頃も同じくしていたが、長い髪は手入れする様子もなく、垂らしたまま。不潔感はないが清潔感もなく、自然に身を任せているという風体で、その割に上質の衣を纏っている。
その身には、右腕が、なかった―――。
「珍しいな。斯様な処に子供とは。迷子か?」
「ちっ、違…違う、もん。」
ダラダラと冷や汗を流して俯く様を、男は、
「なんだ図星か。」
と静かに笑う。
確かに、鹿を追っていつもより少し山の奥まで入ってみたら、見渡す限り大差ない風景の中で、帰り道がわからなくなってしまっていた。今の自分は、きっと耳まで紅潮している事だろう。
「そうか。ならば外まで送ってやろう。何処から来…。」
ぐうぅ…。
こんな時に腹の虫の悲鳴。何という良識のない虫か。
「その前に何か食わせてやろうな。」
男は、左の手で庵を指差した。

内部は囲炉裏が一つあるだけで、小綺麗と言うよりは、生活感がない。
暫くすると、男は片手で器用に纏めたらしい少し型崩れした握り飯を持って現れた。目の前に出されるなり手を出した子供が滑稽だったのか、
「見ず知らずの人間が出した物を疑いもせずに口にするとは…毒でも入っていたら如何する?」
眉を顰めて苦笑するもので、
「そなたは俺に毒を盛る様な人間には見えぬ。」
そう言い放つと、彼は尚もくつくつと笑った。
ふと脳裏を過ぎったのは、人気(ひとけ)のない山奥でひっそりと生き、たまに村から子供を攫って食すという妖、天狗。だが、この男には翼もなければ長い鼻もない、顔も赤くないし、そもそも子供を食すどころか、何の縁もない子供に飯を与えてくれたではないか。
馬鹿馬鹿しい空想を破り捨て、一つ目の握り飯をあっという間に平らげると、無遠慮に二つ目に手を伸ばす。
ちらりと窺うと、男はぼんやりと火の入っていない囲炉裏を眺めていた。その先には特に何がある訳でもなく、ずっと遠い場所を見据えているかの様だ。
「そなたはこんな処に独りなのか?その腕では不便だろう。うちに来るか?父上ならきっと、部屋を貸してくださる。人が沢山いるから、寂しくないぞ。」
しかし彼は徐に頭(かぶり)を振り、
「私はこの山から出られぬ。人目につかぬこの場所でしか生きられぬのだ。不便はあるが、時折弟が訪ねて来ては世話を焼いて行くから、寂しくはない。」
―――その瞳が寂しそうなんだ。
言葉は握り飯と共に喉の奥に押し込んだ。

「あ、此処まで来たらもうわかる!」
住み慣れた城の姿を認めて、子供は声を上げた。
「そうか。ならもう、一人で大丈夫だな。」
男は繋いで歩いて来た手を解す。早く行けと言わんばかりに、あっさりと。
「父上に礼をしてもらう様頼んでおくな。あそこに住んでるんだ。」
小さな指の示した先を見て、男は少し驚いたかに見えた。あの城に思い入れでもあるのか、それとも城主たる父を知るのだろうか?
「御事…名は何と?」
厳かな問い掛けに、子供は快活に答えた。
「時宗丸!」
と。

男と別れ、城への道中、自分を探しに出ていた傅役と鉢合わせ、危険だから一人で行ってはならないと常々言い聞かされていた山に入った事を、こっぴどく叱られた。
「でも人がいたぞ、飯を貰った。」
世話になったから礼をして欲しいと父に訴えたが、人を遣ってもそんな人間は見つからなかったと言い、終いには白昼夢でも見たのではないかと訝しむ始末。逆に、二度と森に入るなと叱責されてしまった。
その後、何度もまたあの場所へ行こうと試みたものの、一層厳しくなった傅役の眼光に阻まれ、森に入る事はなかった。

あの男が何者だったのか、未だ解明されぬままである―――。
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