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伊達好きねこたの歴史関連や創作物についての呟き処+創作小説置き場(もちろんフィクション)です。
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2024.05.18Saturday
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隻腕の天狗4 証
2021.08.07Saturday
本当なら、成実が生まれるよりずっと前に亡くなっている大崎義宣ですが、実は成実と出会っていた、もしくは実元さんから話を聞いて憐れんだ、のだとしたら、成実の男児が『小僧丸』なの、筋が通るじゃないか。
更に、伊達日記で大崎合戦について、鬱陶しいくらいクドクド書いてるの、実は大崎に対する恨みの現れ、だったらこっちも筋が通るんじゃないか?義隆に対する表現が、ちょっと恨み節と言えなくもないし…。
という脳内討論の結果が、この設定です。

成実の子の小僧丸、伯父上の存在を伝える前に、4歳で夭折しちゃいますけど…。
しかも、とんでもないタイミングで……。

『小さい時宗丸』は実元さん(大きい時宗丸)に対する表現です。
大ピピン、小ピピン、みたいなね。(ピピンが何者かは全く思い出せないが、頭に残る名前だなぁ…。)
決して、成実が小さい訳ではなくて。


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大森の父が倒れた!
早馬の報せに、流石に誰も否とは言えず、郷帰りを許された。
病など気合いで跳ね返してしまいそうな強者だが、歳からして何が起きても不思議はない。
不安を抱きつつ帰省すると、父は締め切った私室で床に臥せ―――ずに、褥の上に胡坐を掻いていた。
「早かったな、成実。」
何処から如何見ても病床の人とは思えぬが…。
「心配して飛んで来たのに、何ですかその言い草は?頭の病にでも罹られたか?」
噛みつく様な物言いに、流石の父も少したじろいだ様子で、まぁまぁと息子を宥める。
「臥せっておるのは儂ではないのだ。此処から先は他言無用ぞ。知っておるのは右馬助と淡路だけだ。他の者には話してはならぬ。母にも、政宗殿にもだ。良いな?」
珍しく慎重を期する父の迫力に気押され、成実は無言で深く頷いた。

「昔話になるが…。」
と口火を切った父の話には思い当たる節があった。鳥渡の山奥に隠れ住む隻腕の男―――幼い頃に迷子の自分に握り飯を与え、山の麓まで案内してくれた、あの男。やはり夢幻ではなかったか。
「お前が小僧丸に会うたと言うた時は、肝を冷やしたわ。正直過ぎるお前の事だから、誰かに話してしまうのではないかとな。あの時は嘘吐き呼ばわりして悪かったな。」
「いえ。父上も苦肉の策だったかと。」
「それでだ。」
一息おいて、ずずずと身を寄せて来る父。
「その小僧丸が臥せっておるのだ。儂は病と称しておるから此処を動けん。お前行ってやってくれ。小僧丸はずっとお前に会いたがっておる。」
そっと耳打ちした。
十年もずっと自分を待ち続けている伯父―――あの時の寂しげな眼差しが鮮明に脳裏に甦った。

柔らかい風。小鳥のさえずり。木漏れ日の中に佇む小さな庵は、遠い記憶の中にあるままの姿だ。
「伯父上、いらっしゃいますか?」
畏まって声を掛けても、返しはない。
「伯父上?」
ギィィと軋む木戸を引くと、古い記憶と変わらぬ生活感のない空間に囲炉裏が一つ。
その脇に、綿入れに包まる人間が一人。年老いてはいるものの、確かにあの時の男である様だが、光の加減ではないだろう、酷く顔色が悪い。
「伯父上!」
肩を揺すり再三呼び掛けると、男はうっすらと瞼を持ち上げた。
「……とき…むね?」
「左様で。」
良かった、生きている。
安堵に胸を撫で下ろすと、伯父は力ない片腕で上半身を起こそうとする。慌ててその身を支えると、やはり彼には右腕がなかった。
「小さい方の時宗丸だな。よう来てくれた…。」
皺の増えた節くれ立った手で頭を撫でられると、刹那に十年前に舞い戻ったかに錯覚を思えた。子供と見られているのだろうが、嫌な気はしない。まるで父の如き温もりで。
「今は藤五郎成実と申します。十六になりました。」
「そうか。そうであったな…。時の流れとは早いものだ。」
失った右腕をなぞりながら、小僧丸は自嘲めかしく微笑った。

陽は傾き、紫の空には朱い雲と烏の影が浮かぶ。壁の隙間から射し込む矢筋の光が、時を告げていた。
「伯父上、鍋が煮えましたよ。」
囲炉裏に吊るした鍋の蓋を持ち上げると、食欲をそそる香りが鼻をくすぐる。
「おお、美味そうだな。しかし……。」
無作法に箸で白菜を一枚摘まんだところ、巨大な葉がズルズルと引き上げられた。
「…豪快だなぁ、成実は。」
「見た目は悪くとも食えます!人は口の中に鋭利な刃を持っておるではないですか。」
「まぁ、な…。」
あれもこれも殆どの食材が千切って放り込んだだけ、恐らく味見すらろくにしていないであろう大雑把な鍋がやけに美味く感じるのは、久しく誰かを隣に歓談に酔いしれたせいであろうか。
「伯父上、顔色が悪い。何の病で?」
「さぁな。老衰ではないか?」
「何を馬鹿な。父はまだまだ現役です。年子の伯父上が老衰など、ありえぬ。」
「何にせよ、先は長くない。」
「伯父上!気弱な事を…。」
仰せられますな。その終わりは、叔父の視線に遮られた。
「私は歴史の渦に葬られた身だ。もう、疾(と)うの昔に死んでおる。今更此処で果てたとて、ただの身元不明の老人の死に過ぎぬ。
 だが、成実と実元と、二人だけで良い。お前達だけは、私の存在を覚えておいてはくれまいか。」
まるで遺言の様な伯父の言葉に、成実は身体ごと向き直り、姿勢を正して告げた。
「伯父上の生きた証は、この成実が伝えて参ります。」
その言を体現するかの如く、彼は月が天高く昇ってもその場を去らず、狭い庵の褥も無い床板で夜を明かした。

翌日、容体を急変させた小僧丸は、成実に看取られて旅立った。
泣きながら帰城した息子に、虫の知らせを受け取っていたらしい父は、
「ずっと待っておった小さい時宗丸に会えて、安心したのだろう。お前は小僧丸の最期の願いを叶えてやったのだ。泣くな。」
俯く成実の頭を撫でる仕草は、やはり伯父のそれと同じで。

小僧丸の遺体には伊達の紋の羽織が掛けられ、彼が三十年以上の時を過ごした庵と共に燃された。

成実は、後年誕生する我が子を『小僧丸』と名づけたのだった―――。
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