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伊達好きねこたの歴史関連や創作物についての呟き処+創作小説置き場(もちろんフィクション)です。
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2024.05.18Saturday
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隻腕の天狗2 終の棲家を
2021.08.07Saturday
史実を捻じ曲げまくった展開の大崎義宣物語(●∀´;)
まさかいないとは思いますが、このお話はフィクションですので、信じないでくださいね。

俗に伊達小次郎は『悲劇の貴公子』と呼ばれておりますが、小僧丸だってそうだよ!
義宣・実元兄弟、大好きvV


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―――このままでは家人に殺される。私は葛西へ向かう。
養子となって大崎家を継いでからも、まめに文を交わしていた兄が寄越した消息。
それを受け取るなり、実元は急ぎ馬を引いた。
「殿、どちらへ?」
追って来た右馬助に「葛西だ」と言い放つと、そのまま振り向きもせず一人駆け出した為、慌てて右馬助も後に続く。
いつも冷静で肝の据わった実元が、如何した事か。
葛西に何が?
あまりの真剣な様相に、右馬助は尋ねる事も出来ず、実元からも何一つ明かされぬまま、二人は北上川の畔へと差し掛かった。

それはまるで地獄絵図と呼ぶべき光景。
河原の砂利は真っ赤に染まり、十人足らずの男達の斬殺体が無造作に散らばっている。中には五体の揃わぬ者もあり、人数を特定するのも困難な酷い有様だ。
実元は馬を降り、転がる死体の隙間を縫う様に歩き始めた。まだ息のある者を探しているのか。
四つ、五つの肉塊を越えた辺りで、彼はピタリと足を止めた。中腰の姿勢で、注意深く周囲を窺い、うつ伏せに横たわる一人に的を絞る。
ヒューヒューと血塗れの喉から微かに漏れる息。
「おい!聞こえるか!?」
呼び掛けても相手は身動ぎ一つしなかったが、生きている事は間違いない。
顔を覆い隠す乱れ髪をさらりと掻き上げると、実元は眼を見開いた。
「小僧丸…。」
口をついて出た名。それは幼い頃から唯一人心を通わせて来た、一つ年長の兄の名。
「小僧丸!眼を開けろ、小僧丸!!」
身体を抱き起そうとすると、右腕がぼとりと砂利の上に落ちた。ズタズタに斬り裂かれ、二の腕の僅かな筋肉で辛うじて繋ぎ止められている腕。指先は既に壊死しかけている。
「小僧丸!!」
耳元で幾度も叫ぶと、小僧丸と呼ばれた青年は瞼を痙攣させながら、うっすらと黒眼を覗かせた。
瞳は焦点が合わず、像を結ぶ事が出来ない。が、自分を未だその名で呼ぶのは、この世の中に一人だけ。
「……とき…ね、まる…?」
紅黒い血の纏わりつく唇で如何にか紡ぎ出された、弟の名。
「もう少し耐えろよ。」
おそらく耳も遠くなっているであろう兄が解する様に、ゆっくりと告げると、実元は羽織を裂いて、鮮血の溢れる兄の傷を次々にきつく縛っていった。最後に残ったのは右腕。
適切に処置をすれば、如何にか命は助かるかもしれない。
しかし、この腕は―――。
「許せ、小僧丸!」
余った布を兄の口に押し込み、上から左手で塞ぐと、実元は懐刀を抜き、辛くも形を保っている右腕の筋へと刃を突き立てた―――。

ひやりと額に冷たい物が触れて、反射的に目が覚めた。
すると、濡れ手拭いを置いた男は、そのままの位置に手を停め、不自然な姿勢で固まる。
「醒めたか。気分は如何だ?」
瞳に映る男は、間違いなく我が弟であろう。しかし、長年、文の遣り取りはして来たものの、直接顔を合わせる事がなかった為か、少し印象が違う。
「随分と逞しくなったものだ…。」
掠れた呟きに、実元は瞳を細める。
二十一人の兄弟姉妹の内、腹を割って話せるのは、この一つ違いの兄だけだった。歳が離れている、母が違う、性格が合わない―――生来人づきあいの苦手な実元にとっては、その頭数の多さが苦痛でもあった。小僧丸は同じく集団を好まぬ性格だったせいか、波長が合ったのだろう。喧嘩をした事も勿論あったが、それも良い想い出だ。
「此処に小僧丸がいるのを知っているのは右馬助だけだ。あれは信用出来る。
 傷が良くなったら、森の奥に屋敷を建てさせよう。大崎の眼も大森までは届くまい。晴宗公にも言わぬ。其処でゆるりと過ごすが良い。」
すると兄は首を横に振り、
「屋敷など要らぬ。雨風を凌ぎ、眠れるだけの、小さな庵で充分だ。」
「先頃まで一国の主だった者の言う事か?」
「私はもう死んだのだ。死人に屋敷など相応しくなかろう?」
―――そう厭世的になるなよ。
父の政略に使われた挙句、心が無くとも形だけは家族であったはずの者に殺されかけた、哀れな男。折角取り留めた命だ。甘えられるだけ甘えてしまえば良い。
誇り高い彼には難しい相談かもしれないが。
「そういえば。」
思い出した様に、実元が話題をすげ替える。
「これからは何と呼べば良いのだ?」
「…『小僧丸』で良いんじゃないか?」
「一生子供のままか?」
「今までだって、お前はずっとそう呼んで来たではないか。」
「『義宣』は大崎の名だ。儂は好かん。大体、お前も儂の事を未だ『時宗丸』と呼ぶではないか。」
「呼び慣れた名だからな。」
「なら、これまで通りで良いか。」

その腕を斬り落とした罪を償っていくのだと、深く心に決めた日。
もしもこの世に神や仏が在るならば、いつか彼が最期を迎えるその時に、良き一生だったと誇れる様に、ささやかながらも幸せな終の棲家を与え給え―――。
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