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伊達好きねこたの歴史関連や創作物についての呟き処+創作小説置き場(もちろんフィクション)です。
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「歯?」
2021.05.23Sunday
政宗+成実+小十郎

小田原へ行くべきか否か。御家存亡の危機。
思わず手が出ちゃったよ、どうしよう…。

「芋?」だの「歯?」だの、うちのSSはタイトルが酷い…。
今回は珍しく台詞が多いのに、よりにもよって此処を選ぶかって。

折れた歯が生え替わると思い込んでる成実が書きたくて、そういえば虎哉和尚って80歳で歯が生えたとかいう歌詠んだんだよなー、でもこの時和尚まだ80歳なってないなーって訳で、微妙コラボ(●∀´;)
実はこの歯についての成実と小十郎の問答は3ヶ月前から温めていたネタで御座います…。

当時成実23歳。親知らずが生えて隙間を埋めてくれるかもしれない。
むしろ、親知らずが生える時に(生える保証はないが)痛まなくて良いかもしれない。
と、3日くらい経ったら前向きに考えられそうだよね、成実たんなら(●∀゜人)♪

政宗様は瞬間湯沸かし器だ。



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談合の最中(さなか)、予想だにしない事件の発生に一同は騒然としていた。
重臣の成実が主君を殴った―――。
突然の驚事に、殴られた政宗は唖然として事を起こした従弟を見据え、同席した者達は呆気にとられて動けない者、慌てふためく者、加害者を取り押さえようとする者と対応は様々。当の本人は凶行に及んだ左の拳を震わせ、唇を噛みしめて、うっすらと潤ませた瞳は強い意志を宿していたが、何も口には出さなかった。
「殿!殿!!」
皆の呼び掛けに漸く正気を取り戻した政宗は、怒りを露わにして、鞘に収めたままの刀を成実の鼻先に突きつけ、
「奥で待ってろ!ただで済むと思うなよ!!」
荒々しく怒鳴り散らした。

薄暗い座敷で一人ぼんやりと考える。
何故あんな事をしたのだろう――?
天下を手中に治めつつある男の要請に従い小田原へ参陣するか、真正面から敵対して戦に及ぶか、伊達家の存亡を懸けた大事な評定だったのに。
意見は真っ二つに割れた。成実は後者派である。
今更参陣したところで、遅参を理由に取り潰されるのが関の山だ。いや、もはや生きては帰れないだろう。これまでの再三の要求を悉(ことごと)く跳ね除けて来ているのだから。
更に、個人的な感情を吐露すれば、同盟相手を見捨てて長い物に巻かれるなど、言語道断。
ならば万一に懸けて弓矢を交え、先祖代々の誇りを守りたい。そう主張した。
―――見知らぬ土地で独りで死なせるくらいなら…。
其処に襖が静かに開かれた。

「……小十郎辺りが来るかと思った。」
「俺じゃ不満か?」
「いや。」
姿を見せたのは、数刻前にこの手で殴った相手、政宗本人だった。
「まさか直々のお越しとはね…。」
込み上げる苦笑い。
「他人の口から伝えさせるのは憚られるからな。」
腕を組み無表情のまま、座敷の中心に胡坐を掻く成実の周囲をゆっくりと歩み、ちょうど後ろ正面に達した処でピタリと足を止めた。
「行ったら死ぬと思ってんだろ?」
「……思ってる。」
「そう簡単にこの首をくれてやる気はないぜ?」
「…ん。」
「俺の身を案じてくれた事には礼を言っておく。やり方は乱暴だったけどな。」
「……何もかもお見通しか。」
「残念ながら、評議の結果は小田原行きとなった。」
「…だろうな。」
「俺が出掛けるんだ。留守居が必要だろ?」
「そうだな。」
「任せた。」
「………へ?」
予想外の展開に瞳を見開いて背を逸らす。視線の先で肩越しに見下ろして来る政宗は、彼特有の意地の悪い笑みを湛えていた。
「切腹、とでも思ってたか?」
「……思ってた。」
するとペチンと額を指で弾かれた。
「鳥は二枚の翼で空を飛ぶんだ。」
不意の語り出しに成実はきょとんと口を半開き。
「その翼のどちらか一方でも折れたら、鳥は飛べなくなる。」
「…。」
「俺も同じだ。この背には二枚の翼がなければ飛べない。一枚は小十郎、一枚は…お前。」
相変わらず後ろを向いたままの主人の背中を見つめて、暫しの沈黙―――。
それを打ち破る様に、身体ごと向きを変え、
「俺が悪かった!」
成実は深々と頭を垂れた。
「ああ、そうだな。お前が悪い。だが腹も切らせないし、首も刎ねない。
 が。
 これで許すとは言ってない。」
含みを持たせた語尾が引っ掛かり、訝しげに眉根を寄せて顔を上げると、漸く振り向いた主は、またあの笑みを浮かべて言った。
「やられたら倍にして返す。それが俺の信条だ。」

政宗が立ち去ったのを見届けて、小十郎は不安を抱きながら襖に手を掛けた。
室内に夕陽が射し込み、畳の上に己の影を落とすと、その先に仰向けに横たわる成実の姿が浮かび上がる。
「成実殿!御無事か!?」
敷居の外から恐る恐る声を掛けると、彼はうっすらと瞼をもたげた。
「小十郎。主人の躾はしっかりしとけよ。やられたら倍返しって、梵、今までに何回俺の事殴ったよ?やられなくても散々やってんじゃねーか…。」
「――御無事な様で何より。」
ほっと溜息を一つ零して、その場に膝をつく。
「小十郎、これ。」
成実が投げた物を受け留め、掌を開くと、其処には紅く汚れた白く小さな物体。
「歯?」
「折れた。それ縁の下に埋めといて。傅役なら、主人の後始末くらいしてくれよ。」
寝そべったまま、首を捻って顔だけ此方に向けた成実の左頬は、酷く腫れ上がっていた。
「縁の下…とは?」
「上の歯が抜けたら縁の下に、下の歯が抜けたら屋根の上に投げないと、丈夫な歯が生えて来ないって言うだろ?それ、上の歯だから。」
「………心配せずとも、貴方の歯はもう一生生えて来ませんよ。」
困惑気味な小十郎の言葉に、
「え゛っ!?」
成実は思わず素っ頓狂な声を上げて跳ね起きた。
「『え゛っ!?』て…貴方一体、御自分を幾つだとお思いか?」
「だって、虎哉和尚は、幾つになっても健康でいれば抜けた歯はまた生えるって!」
「…からかわれたんですよ、それは。」
小十郎の冷静な返しを受けて、成実は絶望的な表情で痛む頬を抑える。
「俺の歯……。」
弱々しい呟きは小十郎を大層哀れな気持ちにさせた。

その後、家中の乱れにより大幅に予定を遅らせたものの、政宗は小田原へと出立し、持ち前の才と強運を以て、無事首を繋いで戻る事となる―――。
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