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伊達好きねこたの歴史関連や創作物についての呟き処+創作小説置き場(もちろんフィクション)です。
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2025.11.20Thursday
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「俺も痛い。」
2021.03.19Friday
梵天丸+時宗丸+義姫+竺丸+淡路

御子様シリーズ第1弾。
全ては此処から始まった。導入編。
人間関係はこんな感じですよー、みたいな。

義姫をただの悪役にしたくない。
きっと彼女なりに色々悩んで、でも誰からも可愛い可愛いと言われていた自慢の初子が突然姿を変えてしまったので、可愛さと憎さとが相まって上手く接する事が出来なくなったんじゃないかと…。
時宗はきっと、見た目なんて気にしない子だと思う。
大きくなって身の周りの事全部自分でするようになったら、髪とかバッサバサでも平気で外出すると良いよ(●∀´*)
「俺は違うぞ。敵前だろうが馬上だろうが眠くなれば遠慮なく眠る!」という『独眼竜政宗』での一言は名台詞だと思いますっvV

微妙に梵の眼に関する記述有り。嫌な予感がする方は閲覧注意!



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紅く色づいた楓の葉が一枚、ハラリと落ちて来た。奥州の短い秋はもう終わりに近づいているようだ。
縁側に腰掛け、だらしなく垂らした脚をブラブラさせていた梵天丸(ぼんてんまる)は、ストンと庭に飛び降り、落ち葉を拾った。
見上げると、繁った紅葉の隙間から降り注ぐ陽射しは思いの外眩しく、葡萄の様な大きな黒い瞳を薄く瞼で覆う。
「綺麗…。」
ぽつりと呟いたところへ、先程まで並んで縁に座っていた時宗丸(ときむねまる)がヒョコヒョコとやって来て、隣に位置づいた。
「ホント、綺麗だな―――あ!」
短く叫ぶと、時宗丸が目の前を横切り、右方向へと駆けた。梵天丸がそちらを向くと同時に、パチンっ!!と音がし、振り返りざま、生え替わり時期を迎えて一本欠けた白い歯を覗かせてニッと笑う。
「取った。」
右手の二指で挟んだ一葉をクルクルと回して見せる。
「ああ、また落ちて……。」
と、急に梵天丸は押し黙ってしまった。
「梵?」
とてとて戻って来た時宗丸、背丈の程を同じくする従兄は俯いて、ただでさえ右半分を白い包帯で覆われているのに、長い前髪も相まって、表情はよく見えなかった。

―――四年程前になろうか。
梵天丸は疱瘡を患い、死の淵を彷徨った。
幼児がかかれば極めて死亡率の高い病であったが、彼はどうにか三途の河を渡る事なく目を覚ました。
が。
病は残酷だった。その右眼は白く濁り、瞼は腫れて、溜まった膿が膜を張る、痛々しい状態となってしまったのだ。
痛みが退いても違和感が取れない。周囲の様子もおかしい。
異変に気づいた彼は、庭の池に映して、その姿を見てしまった。
「恐ろしや…。」
何処からか得たその言葉の意味を理解した―――。
それ以来、梵天丸の右眼は包帯に隠され、人前に出る事を極度に嫌うようになった。
小姓として米沢に呼ばれた一つ年少の従弟・時宗丸は、彼が心を許す数少ない人間の一人だ。

見える瞳が一つ。視界は半分。外見だけでなく、その弱みも大きな劣等感に加担していた。
時宗丸が取った落ち葉は梵天丸には見えなかった。もしもそれが落ち葉でなく、敵将や流れ矢であったなら―――些細な事で自分の弱点を改めて突きつけられてしまう。
「梵!」
強い調子で名を呼ばれ、顔を上げた刹那、視界の右下から左上にかけて、小さな影が走り抜けた。
「すぱーっ!」
時宗丸の手刀だった。
「斬られちゃっただろ?」
あっけらかんと真顔で告げる。
「……。喧嘩売ってんのか?」
「心配すんな。梵は俺が守ってやる。」
成り立たない会話。よくある事だ。
時宗丸はしばしば他人(ひと)の話を聞かずに言いたい事だけ並べ立てる。
「大将は本陣で茶でもすすってな。敵が梵の死角に入る前に、俺が全部叩っ斬ってやるからさ。」
だが、案外悪い気はしない。この従弟の言葉は、いつも何処か温かい。
他人の領域にズケズケと入り込んでくる無礼さと、弱点を全力で支えてくれる屈強さ。それらを併せ持つ時宗丸。
また白い歯を見せる、あの笑顔。
歳下のくせに…。
つられて梵天丸も笑った。自嘲気味な笑顔ではあったが。
―――ハラリ。
時宗丸の後ろにまた一枚、葉が落ちた。
「また。」
従兄の指を追い、時宗丸が背後を振り返ったところに、びょう――と強い風が吹いた。紅葉がハラハラと一気に舞い落ちる。
頭の上に降り注ぐ様が楽しくて、二人は楓の続く庭の奥へと駈け出した。

ふと気がつくと、目の前に小さな人影が現れた。それは滅多に会う事はないが、よくよく知った顔。
「竺丸…。」
地面に落ち葉を集めて遊んでいた幼い弟は、梵天丸の声に顔を上げ、大きな二つの瞳を細めて「にーさま、にーさま」と笑った。
しまった、と思ったがもう遅かった。屋敷の陰から一人の女性が現れる。
「竺丸、如何し…梵天丸!?」
その姿を捉えた途端、御前の表情はみるみる変わった。眉を吊り上げ、口の端を引き攣らせて、美しい顔立ちが歪む。
あの日から変わってしまった母・義姫。
近づいてはならないと言いつけられていた母の部屋の傍まで来てしまった。
「母上…。」
「母などと呼ぶでない!恐ろしや、鬼子め。我が子に近づくな!!」
義姫は竺丸を引き寄せ、抱き上げた。
チクリと胸が痛む。
右眼を失くしたあの日から、ずっと願い続けて来た。あんな風に抱いてもらえたら、と。
それは小さな望みであり、梵天丸にとっては何よりも大きな願いであった。
俯いたまま、立ち去る事ができない。脚が震えて思うように動かない。今すぐ此処から去りたいのに、身体が言う事を聞かない。
そんな彼の後ろから、突如声が飛んだ。
「梵は鬼子なんかじゃないっ!」
時宗丸だ。
「義姫様こそ鬼だ!鬼だ!!何も見えない、盲目の鬼だ!」
そう叫ぶと、従兄の手を取り、踵を返して元来た方へと駈け出した。半ば引き摺られる様に去って行く梵天丸の左眼は頑なに母の姿を捉え、無意識に伸ばした手は何に触れるともなく、虚しく空を掻いただけだった―――。

二人の姿が見えなくなると、ふいに義姫の頬を一筋の雫が伝った。
「かーさま、ないてるの?どこかいたいの?」
竺丸の小さな手が頬を撫でる。
「大丈夫。何でもないの…。」
細い指がさわりと竺丸の髪を梳いた。
義姫の脳裏に一つの情景が浮かぶ。
蝋燭の明かりに照らされた仄暗い部屋、高熱に魘され力なく父を母を呼ぶ幼い子。小刻みに震えながら彷徨う小さな手を、あの時自分は強く握り締めた。
「母は此処におる。安心おしや。」
そう囁き、高名な僧を次々と呼び寄せ、ひたすら祈り続ける夫を、
「今この子に必要なのは、祈祷ではなく薬でございましょう!」
と叱咤したのは、確かに自分ではなかったか。
あの時の汗ばんだ髪も、こんな風に柔らかかった…。
瞼を下ろして竺丸の頭に頬を寄せた―――。

夕暮れ近づく廊下の隅に、時宗丸は膝を抱えていた。背にした障子の向こうには梵天丸がいる。
あの後、義姫の視界から外れた辺りで、
「鬼などと!母上に無礼な!!」
と時宗丸の頬に拳をくれたまま、彼は自室へと籠ってしまった。なんとなくその部屋の前に屈み込んだまま、すでに一刻は過ぎてしまったように思う。
頬は尚も鈍く痛む。
「ねえ。まだ怒ってんの?」
永遠に続くかと思われた沈黙を破ってみたものの、「当たり前だ!」と短く斬り捨てられてしまった。
「あのさ、梵。」
再びの静寂を払拭しようと図る。
「待ってたって何も変わらないんだぞ?」
室内から返事はない。
「待ってたらいつか振り向いてもらえるかも、なんて思ったって駄目なんだって。自分で変えていかなきゃ、何も変わらないんだぞ!」
「わかってる!そんな事。」
今度はすぐ様、声が返った。
「わかってないよ。梵はいつも後ろばかり見てる。優しかった義姫様ばかり追いかけてる。」
「うるさい!!もう一発殴られたいのか!?」
「それで気が済むなら、いくらでも殴れば良い。」
障子越しの荒い息遣いがピタリと止んだ。
「俺を殴ったって梵の手が痛くなるだけだ。俺も痛い。誰も嬉しい事なんて何一つない。」
ああ、如何してだろう。
如何してこの年少の従弟は、こうも冷静に正論を紡いで来るのか。
もしかすると、自分が梵天丸としてこの世に生を受ける遥か昔、彼は自分の父か母か兄であったのかもしれない。
梵天丸の左手が障子に触れた。
きっとこの向こうに時宗丸が寄り掛かっていて、此処を開ければパタリと内に倒れ込んで、またあの表情(かお)で笑うだろう。左の頬を赤く腫らして、しかし何事もなかったかの様に、彼はいつも通りに笑うのだ。
では、自分は―――?
思いが縺れ、引手に掛けていた手を退いた。
今此処を開けたら甘えてしまう。目頭に込み上げた熱を止められなくなってしまう。
幼い頃からよく知った仲。彼が米沢に来てからは毎日、日がな一日顔を合わせている。情けない姿など幾度となく見せて来た。
しかし、今日は―――。
少しだけ、背伸びをしてみたくなった。

遠くで微かに虫の音が聴こえる。最期の力を振り絞って、精一杯、自己主張をしている様だ。
月が薄い雲を従えて夜空の支配者となった頃、食欲がないと夕餉を辞して畳に転がる梵天丸。
そういえば、と障子の向こうに耳を凝らす。物音一つしない。
さすがに時宗丸も諦めて帰っただろう。
そうは思ったが、なんだか気になってしまった。
なんとなく意地が張ったのか、梵天丸は次の間へと続く襖を開けて部屋を出た。
隣へ隣へと間は続く。出口は一つではない。
三つ目の間に踏み入れたところで、脇の障子を開けた。この外は廊下、振り向けば自室の外の様子が伺える。
そろりと顔を出してみた。
時宗丸は――――――いた。
もう何刻が経ったか、彼は疲れたか暇だったせいか、廊下に転げたまま眠ってしまったようで、ちょうど傅役の阿部淡路が羽織を掛けて抱え上げたところだった。どうやら、こんな時間になっても戻らない主を心配して探しに来たらしい。
「夕餉も摂らずに、一体何をしておいでか…。」
半ば呆れ気味に、しかし慈しむような優しい声で、呟く。淡路は時宗丸が二歳の時から傅役を務めているというから、もうすっかり兄の様な父の様な感覚であろう。
また胸にチクリと痛みを感じた。
時宗丸はずっと待っていた。
陽が落ちて肌寒くなっても、ずっとあの障子の外で、床板の冷えた廊下で、梵天丸が出て来るのを待っていたのだ。
夕餉も摂らずに。
何よりも食べる事が大好きな、あの時宗丸が。
梵天丸は考えた。
夜が明けたら時宗丸を迎えに行こう。
そうして、朝餉にも剣の稽古にも、時宗丸の好きな事にめいいっぱいつき合わされてやろう。
淡路の屈強な肩に担がれてスヤスヤと眠る一つ違いの従弟に、軽く手を振った―――。
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